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ワークシェアリングとは?導入するメリット・デメリットや事例を解説
近年、少子高齢化による労働力不足、働き方改革の推進、ワークライフバランスへの関心の高まりから、ワークシェアリングが注目されています。
ワークシェアリングとは、1つの業務を複数人で分担することにより、1人当たりの労働時間を減らすことをいい、柔軟な働き方を実現させる仕組みです。
本記事では、そんなワークシェアリングの意味や種類、メリット・デメリット、導入の流れ、実際の活用事例などを解説します。
ワークシェアリングとは
ワークシェアリングとは、これまで1人で担当していた仕事を複数人に分担し、1人当たりの業務負担を軽減する取り組みをいいます。
「ワークシェアリング(work sharing)」は、直訳で「仕事を共有する」という意味ですが、ときに「仕事の分かち合い」と表現されることもあります。
1人当たりの労働時間が減り、多くの人が業務に携わることで、新たな雇用の創出につながります。
また、雇用創出が促進されるのみならず、特定の人に業務が集中するのを防ぎ、作業量の偏りも解消することが可能です。
ワークシェアリングが注目される理由
ワークシェアリングが注目されるようになった背景には、以下のような理由があります。
・失業率の改善
・長時間労働の是正
・多様な働き方への対応
・労働力人口の減少対策
かつて欧州では、不況の影響で失業率が悪化し、雇用維持が課題となっていました。
そこで、多くの企業が従業員の解雇を回避するため、さらには雇用創出や離職防止を目的としてワークシェアリングを導入し、一定の成果を得たのです。
日本においても、失業率の上昇や長時間労働の是正、多様な働き方への対応が求められる中で、ワークシェアリングは重要な解決策の一つとして注目されています。
さらに、少子高齢化による労働力人口の減少が進む中、ワークシェアリングに対する関心が再び高まっていると言われています。
ワークシェアリングの4つの種類
ワークシェアリングは、目的に応じて以下の4つに分類されます。
・雇用維持型(緊急避難型)
・雇用維持型(中高年対策型)
・雇用創出型
・多様就業促進型
ワークシェアリングを効果的に活用するためには、それぞれの種類が持つ特徴や違いを理解することが大切です。
以下では、ワークシェアリングの種類ごとに目的や特徴をご紹介します。
雇用維持型(緊急避難型)
雇用維持型(緊急避難型)は、企業が一時的な業績悪化を乗り切るために導入するワークシェアリングの一形態です。
個々の労働時間を削減することで、コストを削減し、多くの雇用を維持できます。
例えば、工場が雇用維持型(緊急避難型)を導入した場合、工場の稼働時間やシフト勤務を短縮することで、解雇する人数を減らしたり、解雇の時期を遅らせたりすることが可能です。従業員の雇用を守ることは、従業員との信頼関係を維持する上で重要なのです。
雇用維持型(中高年対策型)
雇用維持型(中高年対策型)は、定年退職を迎える中高年を対象にしたワークシェアリングで、定年後も雇用を継続することを目的としています。労働力不足を補うという点において、中高年の雇用は重要視されています。
勤務時間や勤務日数を調整することにより、体力的に長時間労働が難しい中高年の方でも働きやすい環境の整備が可能です。こうして定年延長や再雇用を通じ、中高年層の雇用維持が促進されれば、離職防止につながります。
雇用創出型
雇用創出型は、既存の従業員の業務を分担して労働時間を短縮し、その分で新たな雇用機会の創出を目指すワークシェアリングです。
例えば、休職中の従業員の業務を複数のパートタイマーに振り分けることで、業務の滞りを防ぎながら、新たな人材を採用することが可能となります。
このように、企業は休職者が復帰するまでの労働力不足をカバーすると同時に、必要な業務を進めることができるのです。
多様就業促進型
多様就業促進型は、パート・フレックスタイム・在宅勤務など、柔軟な働き方を取り入れたワークシェアリングの一形態です。
例えば、育児や介護といった家庭の事情を抱える人や、特定の時間帯にしか働けない人でも、ライフスタイルに合わせた働き方を導入することにより、雇用のチャンスを広げることができます。
また、従業員が自分に合った働き方を選べるため、働き方のミスマッチによる離職を回避できるのも特徴です。
ワークシェアリングのメリット
ワークシェアリングの導入には、企業と従業員の双方にメリットがあります。それぞれの具体的なメリットを事前に把握することで、導入の判断材料となります。
それでは、ワークシェアリングの導入による企業側と従業員側のメリットについて見ていきましょう。
企業側のメリット
ワークシェアリングの導入で企業が得られるメリットは、以下のとおりです。
・コスト削減
ワークシェアリングを導入することで、従業員1人当たりの労働時間が短縮され、残業や休日出社が減少します。その結果、人件費や光熱費などのコストを削減可能です。また、離職率が改善されるため、新規採用にかかるコストの抑制につながる可能性があります。
・従業員満足度の向上
ワークシェアリングによって業務の偏りを回避し、労働時間が短縮されることで、従業員満足度が向上します。従業員満足度の向上や「会社が雇用を守ってくれる」という安心感から、会社への貢献意識が高まり、離職を防ぐ効果も期待できるでしょう。
・生産性の向上
1人当たりの業務量に余裕ができることで、従来よりも入念に取り組めるため、生産性の向上が期待できます。
・労働環境の改善
業務の偏りを回避し、残業や休日出社が減少することで、労働環境が改善され、従業員の健康リスクや事故発生のリスクが軽減されます。長時間労働の改善は、働きやすい環境が整うことであり、従業員はより集中して業務に取り組めるでしょう。
・企業のイメージアップ
業務の分担や従業員満足度の向上、労働環境の改善など、ワークシェアリングを導入することで得られるメリットは、企業のイメージアップにもつながります。「雇用を守ってくれる」「働きやすい環境が整っている」という印象は、採用活動においてもプラスに働いてくれます。
従業員側のメリット
ワークシェアリングの導入で従業員が得られるメリットは、以下のとおりです。
・ワークライフバランスの実現
ワークシェアリングを導入することで、残業や休日出社が減少し、プライベートの時間や家族との時間をより確保しやすくなり、充実したワークライフバランスを実現できます。ほかにも、副業や勉強、スキルアップなど、キャリアに充てる時間も持ちやすくなるでしょう。
・雇用が維持される
ワークシェアリングの目的は、雇用の創出や維持、離職の防止です。業務の分担や多様な働き方の導入は、既存の従業員の雇用を維持することにもつながります。
・仕事のモチベーションが向上する
ワークシェアリングの導入により、職場の労働環境が改善されて働きやすくなります。働く環境が整っていると、従業員の会社に対する貢献意欲が高まり、仕事へのモチベーションが向上するため、同じ業務でもより質の高い成果が期待できるようになります。さらには、チームワークも生まれ、社内の雰囲気が一層良くなるでしょう。
ワークシェアリングのデメリット
ワークシェアリングの導入には、メリットだけでなくデメリットもあります。
事前にデメリットを把握しておくと、導入の判断に役立つのみならず、リスク対策を講じる際にも有効です。
ここからは、ワークシェアリングのデメリットについて見ていきましょう。
企業側のデメリット
ワークシェアリングを導入すると、企業には以下のようなデメリットがあります。
・給与計算が複雑になる
ワークシェアリングの導入によって、パート・フレックスタイム・在宅勤務など、会社の働き方が多様化するため、給与計算が複雑になります。すると、経理担当者の負担が増えてしまい、場合によっては新たな給与システムの導入を検討する必要があります。
・既存の制度を見直す必要がある
ワークシェアリングの導入に伴い、既存の制度を見直す必要が生じることがあります。短時間勤務やパートなど、これまで会社に存在しなかった働き方が増えることで、評価基準や福利厚生、業務範囲、権利や責任の範囲などを再設定する必要が出てくるためです。
制度が見直されない場合、公平性に欠け、不満が生じる可能性があります。ただし、制度の見直しには各部署との調整が必要なため、時間と手間がかかることが想定されます。
・一部のコストが増加する
ワークシェアリングの導入で従業員が増えることにより、社会保険料や福利厚生にかかる費用負担が増加します。残業や休日出社の減少など、コストを削減できる部分もありますが、従業員数の増加によって発生するコストとのバランスを考慮し、採用計画は慎重に立てることが大切です。
従業員側のデメリット
ワークシェアリングを導入すると、従業員には以下のようなデメリットがあります。
・収入が減る
ワークシェアリングの導入で労働時間が短くなると、その分給与も減少します。従業員にとっては、労働時間が減っても給与が変わらないのが理想ですが、現実的にはそうしたケースは稀です。特に時給制の場合、労働時間の短縮は収入に直接影響するため、希望する収入を得られない可能性があります。
・従業員間での格差が生じる可能性
ワークシェアリングを導入することで、社内にはさまざまな働き方をする従業員が増えます。ただし、すべての従業員が同じ労働時間で働くわけではなく、ワークシェアリングが適用されない人もいます。そのため、収入や権限の差などから不平不満が生じる可能性が考えられます。
・経験の機会が減少する
ワークシェアリングで1人当たりの業務量が調整されることにより、余裕が生まれる反面、仕事の幅や経験できる機会が減少するというデメリットもあります。「多くの仕事を経験したい」「仕事を通じてスキルアップを図りたい」と考える従業員は、不満を感じてしまうかもしれません。
ワークシェアリング導入の流れ
ワークシェアリングをスムーズに導入するためには、事前に流れを理解しておきましょう。
ここでは、ワークシェアリングを導入する流れを5つのステップで紹介します。
1.現状の把握と改善点の洗い出し
まず、ワークシェアリングを導入するに当たり、自社の業務状況を正確に把握し、改善点を明らかにする必要があります。
どのような業務が存在し、何人の従業員が関与しているのか、またそれにかかる労働時間が適正なのかどうか、具体的に確認しましょう。
その結果、業務が特定の従業員に集中していたり、1つの業務に多くの従業員が関わっていたりする場合は、ワークシェアリングを導入することで、業務の短縮や削減が可能です。
2.ワークシェアリング対象の業務・職種の特定
次に、ワークシェアリングの対象となる業務や職種を選定します。
どの業務・職種にワークシェアリングを適用すると効果が高いのか、導入後どのように課題が改善されるのかをシミュレーションした上で、導入先を決定します。ワークシェアリングでは複数の人が業務を分担するため、経験の浅い人でも一定のクオリティを保てることが重要なポイントです。
3.マニュアル作成と運用体制の整備
ワークシェアリングを導入する業務や職種が決定したら、担当する全従業員が一定のクオリティで仕事を行えるようにマニュアルを作成します。このとき、責任者や人数、教育制度などの運用体制を整備します。マニュアルや運用体制については、導入後も定期的に見直すことが大切です。
4.従業員への周知
ワークシェアリングを導入する際は、目的や仕組み、得られるメリットについて従業員にしっかりと説明する必要があります。従業員の理解が得られないと、導入が成功する可能性は低く、かえって離職の原因になることも考えられます。じっくりと時間をかけて説明し、従業員から納得を得た上で導入しましょう。
5.定期的な効果測定の実施
ワークシェアリングを導入した後は、定期的に効果測定を行うことが大切です。コスト削減や採用、離職率、満足度など、導入時に設定した目標に対してどれだけ達成できているのかを評価し、未達成の場合はその原因を検証します。そして、その結果をもとに改善策を講じると、より高い効果が期待できます。
ワークシェアリングの導入事例
国内外問わず、多くの企業がワークシェアリングを導入しています。
さまざまな導入事例を知ることは、どのような状況でワークシェアリングが有効であるかをイメージする上で大切です。
ここでは、トヨタ自動車とベネッセコーポレーションの導入事例をご紹介します。
トヨタ
トヨタは2009年、アメリカの6工場で1万2,000人を対象にワークシェアリングを導入しました。これは、世界的な景気減速による自動車業界の不況への対応策の一環として行われました。人員削減を避け、雇用をできる限り守るための決断だったのです。
ワークシェアリングの導入により、対象者の労働時間はこれまでの2週間で80時間から72時間に短縮され、それに伴って給与も同時間分が減少しました。
この事例のように、業績不振や不況時には雇用維持型(緊急避難型)のワークシェアリングが採用されることが多いです。
ベネッセ
ベネッセコーポレーションは1992年から時短勤務制度を導入し、早期にワークシェアリング(多様就業促進型)を取り入れました。特に、育児休業から復帰したばかりの従業員が活用する時短勤務制度は、長期的なキャリア形成を支援することを目的としています。
この時短勤務制度により、労働時間を1時間〜2時間短縮することが可能です。女性が働きやすい環境を整えることで、従業員の定着率や満足度を向上させています。
まとめ
ワークシェアリングの導入には、コスト削減や生産性の向上、従業員満足度の向上など、多くのメリットが期待されます。
その一方で、制度を見直す必要や従業員間の格差が生じる可能性があるなど、デメリットがあることも考慮しなければなりません。
各企業の状況や取り巻く環境は異なるため、メリット・デメリット、コスト削減、採用・離職率の改善効果などを総合的に考慮し、導入するか慎重に判断することが大切です。
ワークシェアリングの導入を検討しているのであれば、しっかりと目標を設定し、必要なシステムや環境整備を行い、従業員の理解を得て導入の成功率を高めていきましょう。